今回も思い出の試合を振り返り、掘り下げていきたいと思います。
あまり有名な試合ではないかも知れませんが、私の同い年の代の天理高校の試合です。そう言った意味でも唯一無二、思い出深いこの試合を振り返ります。
※記事の読みやすさを考慮し、恐縮ながら選手名は敬称略とさせていただきます
第80回記念選抜高校野球大会・2回戦
大会5日目第1試合 天理–敦賀気比(2008年3月26日)
1.両チームについて
2.試合について
3.まとめ
4.所感・つぶやき
1.両チームについて
天理の前年秋の戦績は、奈良大会1位・近畿大会ベスト8であった。前チームを経験する選手が複数人残り、秋の奈良大会は安定した勝ち上がり。決勝は奈良大附を9-2で下して優勝した。奈良1位で挑んだ近畿大会は初戦でPL学園を6−3で下し、次戦の準々決勝で智弁和歌山に6−5と惜しくも敗れてベスト8。この年は奈良2位の奈良大附と奈良3位の郡山も揃って初戦を突破し、なんと奈良の3校が揃ってベスト8で敗退。選抜当落線上で冬を過ごすこととなったが、奈良大会1位という実績と投打に渡るチームの総合力を評価され見事選抜出場を果たした。
主将の鈴木、奥田、古田、山下という中学時代からの有名選手、前チームからのレギュラーが中心選手となり切れ目のない強力打線を形成。投手陣は長身188cmからアンダースローで投げる井口と、最速140km超のオーバースロー右腕矢之という2枚看板で、井口が先発し矢之が締めるという継投で勝ち上がった。
この年の近畿大会は名実ともに強いチームが揃った。天理が戦った相手にしても、PL学園はその後夏の南大阪大会準優勝。智弁和歌山は勝谷、坂口、芝田という甲子園経験メンバーが残り後に春夏ともに甲子園ベスト8という実績を残した。選抜出場は果たせなかった学校でも、近田擁する報徳学園、神戸弘陵、夏の奈良大会を準優勝する奈良大附等がいた。
対する敦賀気比は前年福井3位で挑んだ北信越大会でしぶとくベスト4に勝ち上がる。敗れた長野日大が北信越大会を優勝。3枠に拡大されたこの年の北信越枠の3校目で見事選出された。2年生エース左腕の山田修義(現オリックス)を中心に、堅守で僅差のゲームをものにして秋の戦いを勝ち上がった。長野日大に敗れた準決勝も、9回まで2−0でリードしていた中での逆転負け。活発な打線で選抜でも躍進を見せた長野日大を抑え込んでおり、その力は肉薄していると言ってよかった。
どちらも選抜は当落線上というところからの選出ではあったが戦力には確かなものがあった。しかし前評判では打線で上回る天理に分があるとされていた。
2.試合について
2008年、記念大会となった80回目の選抜は、記念開催による出場校数の増枠により、合計36校が出場した。そのため1回戦が3試合のみ設定され、そこで戦う6校以外は2回戦スタートとなる。従って両校ともこの試合が選抜初戦であった。
実は天理はこの選抜前、あるアクシデントが発生していた。秋エースナンバーをつけていた矢之が故障で選抜のベンチ入りを外れたのだ。秋季大会以降に故障し、選抜前のメディカルチェックで投球不可との判断。新チーム以降ずっとエースナンバーを背負い続けた矢之の思わぬ離脱により、秋背番号10だった井口がこの選抜で背番号1を背負うこととなった。天理はその”新エース”井口が先発、敦賀気比は2年生エース左腕山田の先発で試合が始まった。
思わぬ形で背番号1を背負うことになったが、先発経験も完投経験もあった井口の立ち上がりは落ち着いていた。188cmの長身を小さく丸めてのアンダースローからコントロールよく、序盤からコーナーにボールが決まる。バットを出してもフライが上がったり、ストライクゾーンより遥か上のボールにも手が出る。高校野球では珍しいアンダースロー、テレビの画面上でも何か浮き上がって見えるそのボールは、敦賀気比としてもおそらく目にしたことのない軌道であっただろう。井口は左3人の敦賀気比の上位を初回三者凡退に抑えた。
井口は打者一巡目はヒットすら許さず、2回2死の6番林から4者連続三振も記録。4回に先頭の1番錦織にヒットを許すも、打たせてとる自分の投球を展開し敦賀気比打線を序盤ほぼ完璧に抑えた。対する敦賀気比の山田もランナーこそ出すものの内野ゴロを打たせて取る投球で天理に得点を許さない。初回からゼロ行進が続いた。
試合が動いたのは5回裏、2死から1番主将鈴木がレフト線へ痛烈な二塁打。鈴木はこれで3打席連続ヒット。この試合山田を捉えた打球はここまで少なかったが、このヒットは完璧な当たりだった。打てそうで打てない状況を主将の一打で打開した天理は、続く2番立花が俊足活かした見事なバントヒットで続き1、3塁、2死からのチャンスで中軸を迎えた。この後盗塁もあり二死2、3塁で迎えた3番下司の打席。下司の放ったサードへのゴロをサード李がファンブル、サードゴロエラーで天理が先制した。序盤再三のチャンスを作っていた中でついに入った先制点。なおも続くチャンスで4番奥田に回った。
昨秋打率.500で1HR12打点。全チームから5番に座るこの男に絶好のチャンスが回ってきた。天理はまたしても1塁ランナーの下司が盗塁し2死2、3塁にチャンスを拡大。ここで奥田が振り抜いた打球はふらふらっと上がってライトの前へ落ちた。ライト前タイムリーヒット、2塁ランナーまで還り2社生還。2死から作り出したチャンスに畳み掛け、中軸がものにしての3点先制。好投の井口に大きな大きな3点のプレゼント、やや押し気味で進めていた試合の流れを確実なものにしたと言っていい5回裏の攻撃だった。逆に敦賀気比としたら2死からの失点、しかもエラーで先制を許して傷口を広げることにもなり、数字以上に重たい3失点となった。
序盤5回を終えて3−0。天理7安打、敦賀気比1安打。井口の好投に1番主将鈴木が打線を牽引し、完全に天理ペースだった。
7回に敦賀気比が連打でチャンスを作り1死2、3塁と攻め込むも、後続2者をしっかり打ち取り無失点で凌ぐ。鈴木主将の巧みなリードもあり、この日の井口の投球は一段と落ち着いていた。一方の天理打線も6回7回とランナーを出すも無得点。得点はできずとも終始塁を賑わせ、攻撃の面でも相手に流れを渡さない攻めを続けた。
またしても試合を動かしたのは天理だった。先頭の8番山下を四球で出すとバントで2塁へ進めたところで、迎えるバッターは1番の鈴木。敦賀気比からしたらもう絶対に出したくない、打たせたくないバッターだ。6、7回も攻め込まれながらなんとか凌いだ山田だったが、この鈴木を追い込んでから投じた1球、好打者鈴木を空振り三振に打ち取った、かに見えた。しかしスイングした後のボールをキャッチャー山本が取ることができず、振り逃げ成立。鈴木にこの日5打席全てで出塁を許す形となった。1死1、3塁で2番立花の打席、ここで山田が投じたボールが高くそれ、ワイルドピッチ。次の1点が天理に入った。さらに2死2塁の場面で3番下司がセンターへ痛烈に打ち返しタイムリーヒット、8回裏天理2点目、この試合を決定づける2点が入った。8回裏を終了して5−0とリードを広げた。
9回表の敦賀気比の攻撃は、7回同様に先頭の2番辻、3番李の連打でチャンスを作り、5番起きも続いて1死満塁とチャンスを広げる。疲れも見え始め、試合の終わりを意識しややストライクを急いだ感があった井口、これを敦賀気比は見逃さなかった。この満塁のチャンスで6番林は冷静に見極め四球、押し出しでついに敦賀気比に1点が入った。連打もあったが明らかにここまでと様子の違う井口を見かねて鈴木はここでタイムを要求、一気に行かれかねないところで一息つく。これで落ち着きを取り戻したか、この後続く7番山田を投ゴロ、8番高畠をキャッチャーファールフライに打ち取って試合終了。
最終回やや苦しい投球となった井口–鈴木のバッテリー、しかしこの最後のアウトを取った瞬間、今日のキーマン二人に満面の笑みとガッツポーズが溢れた。3年ぶり18回目の選抜の舞台、しかしこの選手たちにとっては初めての甲子園で、しっかりと1勝を掴み取った。
敦賀気比(福井)
000 000 001-1
000 030 02X-5
天理(奈良)
(敦)山田-山本
(天)井口-鈴木
3.まとめ
スコアが示すように天理の完勝、快勝だった。しかし中盤まではゼロ行進が続き、天理としたらいまいちリズムに乗れない、敦賀気比としたら粘れているという展開だった。チャンスは作るもものにできないイニングが続いた天理だったが、5回裏に2死から先制した3点が大きく、試合の流れをがっちり掴んだ。この5回に2死から作ったチャンスがこの試合のターニングポイント。急遽のエースナンバーであった井口にとっては大きい、一方守りでリズムを作っていた敦賀気比としたら痛い得点であった。
この試合のキーマンはエース井口、そして主将の鈴木だった。井口の安定した投球、そして捕手としてそれを引き出し打っては1番打者として打線を牽引した鈴木、この二人の活躍が勝因であったと言って良い。
井口の188cmの長身から繰り出されるアンダースローの軌道は、おそらくなかなか出会えるものではない。初めて見る、浮き上がってくる様な軌道のボールは球速以上の威力もあり、敦賀気比の打者のバットがボールの下を切る、当ててもフライを打ち上げるといった場面が多々見られた。井口の投球はほぼ完璧で完封ペース、最終回粘られるも押し出し四球の1点のみ。打線が残塁を積み重ねてしまう中でもなんとかリズムを掴めたのは、この井口の好投の賜物である。捕手で主将の鈴木も初めての甲子園の舞台でありながら、中学時代全国制覇の経験は大きく、大舞台でも物怖じせず攻守にパフォーマンスを発揮。捕手としては井口を巧みにリードし、打っては1番打者として3安打含む5打席全て出塁し2得点。初めての甲子園で序盤乗り切れないチームを見事に牽引した。
4.所感・つぶやき
冒頭でも書いたように、同い年の代の天理とあって、非常に感慨深く今も忘れられないチームです。なのでこの敦賀気比との初戦もそういう意味でドキドキして見てましたし、勝った時の喜びも安堵に近いものがありました。
安堵といえば選抜出場決定の安堵もめちゃくちゃ大きかったです。前年秋は智弁和歌山に逆転負けでベスト8。当時5、6枠目についてはベスト8敗退の4校のうち3校が奈良ということで地域性で北大津がほぼ確定的、残りは天理か奈良大附かと見られていました。奈良大附は敗れた東洋大姫路が近畿大会を優勝、方や天理を破った智弁和歌山は次の準決勝で平安に敗退(平安は次の決勝で敗戦)、しかし天理は奈良優勝。当時の印象では天理6:奈良大附4くらいな周囲の評価だったので選考会まで本当にドキドキしてました。
そんな当落戦上だったチームが無事選抜の初戦を突破しただけでなく、次戦も勝利してベスト8。準々決勝は優勝した沖縄尚学に敗れはしましたが、強豪揃いの記念大会の選抜でその強打を発揮し、この98代の試合を3試合も見ることができ、とても嬉しかったのを覚えています。
敦賀気比は、正直この時についてはそんなに強さを感じてはいませんでしたが、この2年後の選抜の初戦でも対戦しリベンジされます。。。多くのプロ野球選手も輩出し、チームの力強さと全国での活躍はご存知の通り。グレーに縦縞のユニフォームは現代の高校生にも大人気、イメージで言ったら今の高校生には敦賀気比の方が強く感じられるかも知れませんね。
甲子園では選抜だけで2戦1勝1敗、その雌雄を決する対戦はあるのか(今選抜になるか)、いつかまた甲子園での対戦が見たい1校です。
それではまた!
ガッツ天理🟣⚾️!!