過去の名勝負

紫の記憶〜2006年夏・天理–本荘〜

打棒炸裂!猛攻振り切り前年の悔しさ晴らす聖地での一勝

今回は2006年夏、第88回選手権大会の初戦となったこの試合について書いていきます。

2006年というと、このブログで何度も触れている眞井選手のいた2005年の翌年。前年2年生として試合に出ていた選手達が今度はチームの中心となり迎えた夏でした。

88回選手権といえば決勝戦での早稲田実業斎藤佑樹投手、駒大苫小牧田中将大投手の投げ合いとなった延長引き分け再試合。もう言うまでもなく有名ですね。大会ホームランも当時最多の60本。決勝戦以外のも熱い、印象深い試合や選手が多く今もなお話題に尽きないファンの間では語り草となっているこの88回大会。そして現在プロ野球界で第一線で戦っている多くの選手を輩出した大会であり世代、そんな熱い88年世代の選手達の戦いです。

記事の読みやすさを考慮し、恐縮ながら選手名は敬称略とさせていただきます

 

88回全国高校野球選手権大会・1回戦

大会5日目第2試合 天理本荘2006810日)

1.両チームについて

2.試合について

3.まとめ

1.両チームについて

天理

現在も夏の奈良大会の最多記録である大会4連覇を果たしたこの夏。前年からレギュラーだった3番松原、4番藤原、甲子園でも登板したエース藤井といった甲子園経験者を中心とし、選抜出場こそならなかったが奈良県内で経験値・実力は県内屈指のものがあった。新チーム発足後の秋季奈良大会を優勝、近畿大会では1勝を挙げベスト8に入るも選抜出場は惜しくもならず。春季大会では準々決勝で敗退し夏はノーシードから6試合を戦った。このチームが印象的な試合は夏の奈良大会決勝の斑鳩・法隆寺国際戦。準決勝まで4割越えのチーム打率を誇った天理打線が決勝は相手投手を打ちあぐね、3−2と1点ビハインドで9回裏を迎えた。斑鳩の校名がなくなる最後の夏、そして全国で合同チームとして初の甲子園なるかと言う試合で、なんと9回裏1死満塁から5番高橋のレフト前2点タイムリーで4−3と逆転サヨナラ勝利。今もYouTubeに動画が残る、試合後森川監督も号泣の劇的な決勝戦を制して奈良大会新記録の大会4連覇で4年連続夏の甲子園出場を手にした。チーム打率.386だが大味にはならず、センターから逆方向を中心としたシュアな打撃とバントを積極的に使った堅実な攻めで繋ぐ攻撃が持ち味。4割打者をズラリと並べ力のある選手が揃うが、当時の森川監督の野球らしく堅実丁寧な野球をする。投手はエース右腕の藤井と背番号10の左腕後藤の両輪で継投で勝ち上がった。藤井・後藤のどちらも完投能力がありながら先発もリリーフもこなし、相手や試合に応じて先発を変えて戦う。プロ注目選手がいるようなチームではないが投打にハイレベルにまとまっていた。

本荘

決勝で秋田中央との接戦を2−1のサヨナラで制して夏の甲子園出場を掴んだ2006年。この当時の秋田というと前年夏と同年選抜に出場、選抜はベスト8進出した秋田商業が有力と見られていた。一方本荘もシード校として挑んだこの夏の大会。初戦の2回戦ではその秋田商業のいきなりのぶつかり合いとなった。しかしこの屈指の好カードを2−0と完封で制し優勝候補筆頭を一蹴。勢いそのままに18年ぶりの夏の甲子園復活を果たした。エース左腕高橋を中心に守り勝つチーム。コールド勝ちは準決勝の1試合のみだったがここ一番での打線の集中力は素晴らしく、決勝の秋田中央戦も9回2死からのサヨナラ劇だった。実は過去2回の夏の甲子園は共に完封負けと、まだ甲子園での得点が無いこの本荘。甲子園1勝とともにその悔しい歴史に終止符を打ちたい夏だった。

どちらも県大会決勝は劇的なサヨナラゲームで制し勢いに乗る。前年甲子園経験者が揃い打力に勝る天理が上回るとの前評判だったが、勝負はこれとは裏腹にもつれた試合となった。

2.試合ついて

先攻天理、後攻本荘。天理藤井、本荘高橋の両エース先発で試合が始まった。

試合は初回の天理の攻撃から動いた。先頭の1番多田が上手くミートしセンター前へ運ぶと、2番室谷が送りバントをしっかり決め1死2塁。迎えた3番松原が真ん中付近の直球を鮮やかにレフト前へ運びタイムリーヒット。幸先よく1点を先制した。

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しかしまだ終わらない。続く4番藤原にも送りバント。4番に送らせて2死にして作ったランナー2塁のチャンスで、5番高橋がスクリューを溜めて振り抜きレフト頭上を越えるタイムリーツーベース。鮮やかな攻撃で初回2点を先制した。当時の天理らしくバントを絡め、センターから逆方向中心の打撃でチャンスをモノにする堅実な攻撃だった。本荘の好左腕高橋をしっかり捉え、しかも初回でいきなり2犠打。緊張感ある甲子園初戦でも初回から自分達の攻撃を繰り広げる様は流石甲子園経験者の残るチームといった落ち着きだった。

甲子園で初めての先発となる藤井にも初回の2点は大きかった。藤井も180cmの長身からスリークウォーターの軌道で投じるボールは直球変化球共にキレがあり、初回からその持ち味を発揮して本荘打線を翻弄した。2点のプレゼントをもらってこの試合をスタートした藤井は着実に本荘打線を切って取り、4回までノーヒットに抑えスコアボードにゼロを並べた。

次に試合を動かしたのもの天理だった。5回表、先頭多田がセンター前ヒットで出塁すると、2番室谷がこの日3つ目の送りバントを試み、これが内野安打となり無死1、2塁、3番松原も出塁して無死満塁で4番藤原を迎えた。初回第一打席ではバントも決めてチームの繋ぎの野球を体現した主将だったが、絶好のチャンスで回ってきたこの打席、狙い澄ましたかのように甘く入った直球を仕留めると打球は弾丸ライナーでレフトの頭上を超えフェンスに直撃。あわや満塁ホームランかという当たりは走者一掃のタイムリーツーベース。中継プレーの乱れの間に藤原も3塁に到達、今度は自分で決めた4番の一振りで一気に3点を追加した。これで完全に着火した打線はまだ続く。藤原を3塁に置き5番高橋は高めに浮いた直球を逃さず叩く。またもやレフトに高々上がった打球は、今度はフェンスもこえてスタンドへ。大きなツーランホームランでさらに2点を追加しこの回一挙に5点、7−0とリードを広げた。重厚感ある伝統の応援ワッショイに乗りながら4番5番の連打、圧巻の攻撃。初回同様に1番バッターが出てバントで送り中軸が決める。天理としたら理想的な展開だった。

続く6番森本もまだ動揺の残る高橋の初球を捉えてレフト前ヒット。未だ無死。ここで本荘はついにエース高橋をマウンドから下ろした。リリーフした背番号10右腕伊藤は後続を抑え追加点は許さなかったが、5回表を終わって7−0と天理のリード。天理はここまでヒット9本。勝負は決したかに思われた。しかしこの伊藤の登板から、試合の流れは徐々に本荘の方に流れていく。

直後の5回裏本荘の攻撃、1死となってからリリーフして7番の打順に入った伊藤が藤井のスライダーを捉え痛烈なレフト前ヒット。本荘はこれがこの試合初めてのヒットだった。自分の投球をのびのび繰り広げる藤井に同じ投手伊藤が待ったをかけたようだった。続くバッターはマウンドを降り一塁の守備に入っている8番高橋。この高橋も初球を鮮やかにレフト前に流し打ち。伊藤・高橋の両投手の連打で今度は本荘が無死1、2塁のチャンスを作る。藤井の投球に打たされる形でなかなか自分たちの打撃ができていなかった本荘が、このヒット2本はしっかり引きつけて打ち返していた。9番田口はきっちり送って2死2、3塁。ここで迎えるバッターは1番東海林。天理のワッショイに負けない本荘のタイガーラグの大応援が鳴り響く中、東海林が打って打球は3塁線へ。サード梅田が追いついたかに思ったその時、梅田のグラブの僅か前で打球がサードベースに当たりレフト方向へ大きく跳ね上がる。サードランナーに加え、この間にセカンドランナーまでホームイン。本庄が2死からしぶとく2点を返した。過去2回の夏の甲子園は共に初戦完封負け。これが本庄が甲子園で記録した初めての得点となった。2番菅原も打ち返すがレフトライナーで攻撃終了。前半5回を終わって7−2と天理5点のリード。しかし5回裏の攻撃で流れはやや本荘に向いて前半を終えた。この5回裏初ヒットから2点、明らかに本荘打線が捉え始めていた。

続く6回、本荘は主将の4番鈴木徹のライト線タイムリースリーベース等で2点を追加、7−4と追い上げた。ここで天理はたまらず先発藤井を下げ、左腕後藤にスイッチした。こちらも、リリーフした後藤がこの後打線の火消しをする。

やや疲れの見えていた藤井を捉え始めていた本荘だったが、乗りかけたところで目先を変えられ、また後藤の低めを突く丁寧な投球の前になかなか次の一点が取れない。直球はキレ・制球良くコーナーへ、カーブもしっかり低めに決まる。結局6回に3点差まで追い上げるもその後の追加点を取ることができない。対する天理もリリーフした伊藤の前に6回以降は4安打無得点と鳴りを潜め、本荘に流れが傾きかける中次の得点を奪えずにいた。

試合はついに9回裏を迎えた。後藤はリリーフ後安定した投球を見せており、投じるボールは直球変化球ともほとんどベルトより下に集まり高めに浮かない。その内容は藤井を上回る物だったかもしれない。本荘は先頭の8番高橋がファールフライで1死、9番の代打伊藤三振で2死。ここで本荘は1番東海林に回った。またしても1塁アルプルから大声量のタイガーラグが鳴り響いていた。しかしこの大声援と最終回2死にも落ち着いてストライクを重ねる後藤。カウント2−2となっていよいよあと一球の雰囲気も漂うその時だった。後藤がウイニングショットで投じた直球が高めに高く浮いた。逃さない、東海林が一閃。打球はセンターへ大きく伸び、バックスクリーン左に入るソロホームラン。9回2死からホームランで1点を返し7−5、ついに2点差となった。

後アウトは1つだが急がない。天理は守備のタイムをとり、先発したエース藤井が伝令で内野へ、後藤に言葉をかける。一呼吸置いた天理ナインはもう落ち着きを取り戻した。後藤は続く2番菅原に初球カーブを投じ、菅原はこれを打ち上げ内野フライ。最後は主将ショートの藤原がウイニングボールを掴んで試合終了。本荘の猛追を振り切った天理が7−5で試合を制し2回戦に進出した。

前年夏は初戦で国士舘に逆転負けを喫した天理。9回1死までリードしていた中での逆転負けだった。この頃特に甲子園への出場頻度が高かった天理だが前年は改めて初戦の難しさ、甲子園で勝つことの難しさと悔しさを味わった。夏の甲子園で2年ぶりとなる勝利。経験者揃う名門校が激戦の末に噛み締めた勝利だった。

天理(奈良)
200 050 000-7
000 022 001-5
本荘(秋田)
(天)藤井、後藤-森本
(本)高橋、伊藤、高橋-鈴木

3.まとめ

前半は天理ペース、後半は本荘ペースと、5回を境にまるで別の試合を見ているかのようにガラッと流れが切り替わった。鮮やかに先制した後中押しもし5回までは天理の完勝ペースかと思われたが、中盤から終盤にかけて本荘が猛攻。しかし継投でこの猛追を振り切った天理が2点差まで迫らながらも勝利を収めた。

天理の5回までの打撃、得点は完璧だった。初回そして5回とも先頭の1番多田がヒットで出塁し、バントで送り、中軸が打って決める。3番4番5番の3人で全7打点を記録。自分達の形であるバントもしっかり絡めながら、打つべき人が打って点を取る理想的な形だった。3番松原4番藤原を中心に前年から甲子園を経験する選手がしっかり自分達のプレーや野球を繰り広げたことが大きいだろう。投手に関しても藤井は最後打たれが序盤から持ち味のボールのキレを発揮した投球で本荘打線を打ち取り試合を作った。リリーフした後藤もしっかりと火消しをし本荘に傾きかけた流れを食い止めた。5失点はあったものの新チーム発足当初から続く藤井と後藤の継投で試合をモノにした。とにかく投打に浮足だった場面がほぼ見られず、大甲子園でも落ち着いてプレーを展開している様子が印象的で、4年連続の選手権出場は伊達ではないと思わせる戦いぶりだった。

流れを変えたのは本荘のリリーフ伊藤。一挙5点を許した5回途中からマウンドに上がるも、その後をずるずると行かず後続を切った。また打っては直後の5回裏の打席で本荘のチーム初ヒットを放ち反撃の狼煙を上げた。そしてもう一人のキーマン、1番東海林だ。5回裏の2点タイムリーは学校としての甲子園初得点であり、天理への反撃開始の1打だった。そして最終回は2死2ストライクとあと一球のところからセンターバックスクリーン横に豪快な一発。タイガーラグの大声援に乗り打線を牽引した。

惜しくも届かなかった本荘だが、当時秋田県勢が夏の甲子園での勝利が遠ざかっていることなど感じさせない、投打の力強さを見せた戦いだった。当時前年夏、同年選抜と2期連続甲子園出場していた秋田商を差し置いてこの夏の選手権を射止めた本荘。甲子園での初勝利は後輩達に託されることとなったが、過去2回の完封負けという悔しい歴史を塗り替え甲子園のスコアボードに初めて数字を並べた。そのことが象徴するように、甲子園の舞台で大きな一歩を踏み出したこの夏の戦いだった。この後当時1年生だった世代が2年後の2008年に再び夏の甲子園に出場。甲子園に出たことで強豪校との練習試合も組めるようになったとの尾留川監督のコメントも示すように、この夏の戦いが後の世代に及ぼした影響は大きかったと言える。

 

今回も最後までご覧いただきありがとうございました!

それではまた!

ガッツ天理🟣⚾️!!

ABOUT ME
kosuke@天理野球部応援
新潟出身東京在住。2004年〜天理高校ファン。高校野球は地元新潟県勢と天理高校を応援してます。生きてるうちに天理高校と新潟県勢の全国制覇が見たい!