全国で見せた下剋上!天理102代のベストゲーム!
今回は今からちょうど10年前の試合についてです。
この世代は大阪桐蔭の藤浪投手、花巻東の大谷翔平選手など、多彩な選手、好チームが揃う年代でした。そんな代にあったこの天理102代は、実は前年の不祥事による監督の交代を経ての新チーム発足を経験しました。激動の時代を経験した世代でしたが近畿大会や甲子園での活躍は目覚ましく、天理野球部の心機一転・再出発を印象付けたチームでした。そんな熱い2012年夏の戦いの一幕を切り取ります。
※記事の読みやすさを考慮し、恐縮ながら選手名は敬称略とさせていただきます
第94回全国高校野球選手権大会・3回戦
大会11日目第3試合 天理−浦和学院(2012年8月19日)
1.両チームについて
2.試合について
3.まとめ
4.所感・つぶやき
1.両チームについて
天理、浦和学院ともに春夏連続で迎えた甲子園。ともにこの年においても高い実力を誇ったチームだった。
天理は前年近畿大会準優勝で選抜に出場するも、初戦で健大高崎に”機動破壊”を見せつけられ敗退。奈良県下ではこの年智弁学園も強力であり、天理は秋季奈良、近畿、春季奈良と3連敗していた。夏はこの智弁学園を倒さなければ甲子園はないという状況だったが、智弁学園は夏の準決勝で畝傍に4−3と敗退し決勝目前で姿を消す。智弁学園へのリベンジこそ叶わなかったが、相手がどこであろうと夏の天理はモノが違う。勢いに乗る畝傍との決勝を13−6と制し夏の甲子園を手にした。新チーム以降公式戦での”優勝”を経験したことのなかった102代が、復帰した名将橋本武徳監督の下最後の夏に奈良の頂点に輝いた。
前チームから試合経験豊富なエース左腕中谷、速球派右腕山本の2枚看板を中心に、堅守で守り勝つチーム。ただ打線の方も選抜以降一段と力強さを増し、奈良大会5試合で計6本塁打、チーム打率は.348と強打を発揮した。吉村、稲別、木村という大型野手に2年生の早田、東原、4番古田を揃える打線は力強く、選手個々の力が際立っていた過去2年とは異なり投攻守にまとまったチームだった。選抜で腰を骨折するという大怪我をしたエース中谷がなんとか夏に間に合ったものの奈良大会では結局完投がなく、投球はまだ本調子ではないという中で迎えた甲子園だった。
甲子園では1回戦で好左腕長友擁する宮崎工に苦しみながらもワンチャンスをモノにして勝利。相手より少ないヒット数ながら相手エラーに乗じて勝ち越し最後はスクイズで決勝点と試合巧者ぶりを発揮。橋本監督復帰後の甲子園初勝利を挙げた。続く2回戦では鳥取城北に対し6−2と快勝。上位打線が活発で1、2、3番で全打点を挙げ、鳥取出身のエース中谷が前年秋以来となる公式戦完投勝利で故郷に錦を飾った。この試合で怪我明けの中谷に完全復活の兆しが見えた。
対する浦和学院も春夏連続の甲子園出場。前年選抜も経験する右のエース佐藤を中心に投打に充実。同年選抜では優勝した大阪桐蔭に準々決勝で敗れベスト8。しかし9回表までリードしていた中での惜敗で、選抜で最も大阪桐蔭を苦しめたといって良い。この夏は優勝候補の一角にも挙げられており、チームとしては全国制覇そして”打倒大阪桐蔭”を目指しての夏だった。
1回戦は高崎商業との関東勢対決となったが、エース佐藤が7安打完封。打っても5番笹川に2ランホームランが飛び出るなど6−0と勝利。2回戦は甲子園の常連・聖光学院に対し笹川の2試合連続弾やエース佐藤にも一発が飛び出し、投げてはまたしても佐藤が完投し11−4と打ち勝った。2試合連続2桁安打で計17得点、どちらの試合も力の差を見せつける快勝でこの3回戦に臨んだ。2000年代後半は高いチーム力を誇りながらなかなか甲子園での上位進出を果たせずにいた浦和学院、しかし同年のチームはその鬱憤を晴らすかのように甲子園でいくつもの勝ち星を挙げた。
ほぼ完勝に近い勝ち上がりの浦和学院と、接戦も経験ししぶとく勝ち上がってきた天理。前評判としては投打に充実、春夏連覇に挑む大阪桐蔭打倒の筆頭として見られていた浦和学院が上回るとの評価だった。浦和学院としたらこの試合を勝てば春と同じく準々決勝で大阪桐蔭と当たる可能性のある組み合わせ。王者に挑む一戦であった。
2.試合ついて
炎天下の第3試合、浦和学院先攻・天理後攻で試合は開始した。天理の先発はエース中谷。浦和学院の先発は背番号10の2年生山口だった。この先発起用が試合を大きく左右する。試合は序盤から大きく動いた。
1回表、先にマウンドに上がったのは天理の中谷、強力浦和学院の上位打線を3者凡退で退けた。この夏3試合連続、過去2度の選抜も含めれば6回目となる甲子園の先発マウンドは落ち着いていた。
1回裏、今度は浦和学院の山口がマウンドへ。2試合先発完投のエース佐藤を温存したかにも見えたこの器用だが、後の浦和学院森監督のインタビューでは「1、2回戦で調子が悪かった」佐藤をリリーフ待機とし、選抜の大阪桐蔭戦で好投を見せた2年生右腕をぶつけてきた。しかしこの山口の制球が落ち着かない。天理の1番早田に死球を与え出塁を許す。続く2番東原、3番綿世を打ち取り2死となるが、4番古田に四球、5番稲別に死球を与え2死満塁。続く6番吉村の打席で、今度はワイルドピッチ、3塁ランナーが生還しノーヒットで天理が1点を先制した。吉村は一塁ファールフライに抑え続くピンチは脱するも、初回四死球3つに暴投1つと不安定な立ち上がりとなった。
自軍のミスで先制を許した浦和学院だが嫌な流れはそのままにしない。先頭の4番山根がセンター前ヒット、5番笹川が死球で出塁、6番高田がバントで送って1死2、3塁とすぐさまチャンスを作ると、7番明石が1塁前に見事スクイズを決め1−1の同点。主将が流れを渡さんとばかりの巧みなバントですぐさま追い付いた。
しかし天理の攻撃はしぶとい。2回裏7番木村、8番中谷を連続で打ち取って立ち直ったかに見えた山口だったが、2死から9番舩曳が四球を選び出塁。この僅かな隙を見逃さない。1番早田のところで1塁ランナー舩曳がスタート、早田は外寄りの変化球を叩いて打球はライトへ。緩やかに上がったように見えた打球だが風が押して、追うライト笹川のわずか先を抜けて外野に落ちた。スタートしていた船曳は一気にホームを陥れ、早田は3塁まで。タイムリースリーベースとなって天理がすぐさま勝ち越した。尚も続く2死3塁で2番東原が低めを強く引っ張り3塁線へ、サード高田を強襲するタイムリーとなって3塁ランナー早田が生還した。打球が高く跳ねる間に東原も2塁へ(記録は2塁打)。1番早田、2番東原がともにファーストストライクを振り抜いて連続長打、あっという間の速攻だった。たった一つの四球をきっかけに2死から天理が2点を奪い3−1とリードを取り戻した。浦和学院としたら痛い2点、先発の山口はこの回を最後にマウンドを降りた。
3回裏、浦和学院は先発山口に変え1年生左腕小島を投入。しかし掴んだ流れは渡すまいと天理の積極的な攻撃は続いた。1死から5番稲別6番吉村の連続ヒットで1、3塁のチャンスを作ると7番木村が高めに浮いた球を見逃さずセンターに打ち返し犠牲フライ。1点追加し4−1とリードを広げた。この回の得点はこの1点のみだったが続く8番中谷、9番舩曳も連続ヒットで出塁し、塁を賑わせ攻撃の流れを譲らない。
浦和学院の反撃は直後の4回表、2死から6番高田のレフトポール側へのソロホームランで1点を返し4−2とした。取られたら取り返す、力の片鱗を見せた。しかしこの直前の攻めに流れのあやがあった。この回先頭の4番山根が2打席連続となるヒットで出塁し反撃の狼煙を上げるも、5番笹川がセカンドゴロダブルプレー。前2試合当たっていた笹川の痛烈な打球だったが、天理のセカンド綿世が球際強く見事に捌いてダブルプレーに打ち取った。一二塁間抜けようかという打球をスライディングしながら捕球、天理の守備の堅実さが現れた。その直後のホームランとあり、失点こそしたもののゲームの流れ・ツキは天理にあるようことを示すかのような4回裏だった。
試合はまだ落ち着きを見せない。5回の裏の天理の攻撃、先頭5番稲別がレフト線へツーベースを放つと、6番吉村が相手守備の隙を突く絶妙なセーフティバントで一塁セーフ、無死1、3塁とチャンスを拡大した。ここに来て揺さぶりもかけながら攻め浦和学院を飲み込んでいく。どこか自分たちの流れでないことは浦和学院の選手も感じたか、守備陣からは焦りのようなものも感じた。7番木村のところで1塁ランナー吉村が二盗。これを刺そうと捕手林崎が2塁へ送球するも、3塁ランナーを気にして一瞬躊躇したか、なんとボールを叩きつけるような形でショート方向へ暴投。竹村は2塁へ入っていたためボールは無人のショートを転々。天理に5点目が入った。浦和学院にミスが出たというよりは、天理が作った流れが引き起こしたと言って良い。
尚も無死3塁のチャンスが続くが、小島は7番木村8番中谷をそれぞれショートゴロに打ち取り2死。どちらも三遊間への当たりだったがショート竹村の連続好守備で凌いだ。冷静さを取り戻したかに見えた。しかし2死3塁、続く9番舩曳が鋭く打ち返し二塁左を抜けるセンター前タイムリー。相手のミスで広げたチャンス、落ち着きかけたところをまさに”仕留めた”主将の決定的とも言える一打だった。またしても2死からの追加点で6−2とリードを広げた。当時NHKでこの試合を解説をしていた鬼嶋一司氏をして「これが伝統の力」と言わしめた。一気呵成、相手を飲み込み得たチャンスをしぶとく刈り取る、試合巧者ぶりを見せた隙のない攻撃だった。
前半5回を終了して6−2と天理4点のリード。これが最終スコアとなった。
浦和学院は6回裏からエース佐藤を投入。佐藤は流石の投球を見せ、6回以降天理打線に許したヒット1本と完璧に抑えた。しかし時すでに遅かった。
対する天理中谷も6回以降毎回ランナーを出すが、的を絞らせない投球と堅実な守備で要所を締めて得点を許さない。上位から始まった6回表の2死満塁を無失点で切り抜け、8回には4番山根に3本目のヒットを許すもまたしても5番笹川をダブルプレーに打ち取りチャンスの芽を摘む。最終回も代打西岡にツーベースを許すも後続を打ち取り試合終了。
中谷は結局124球完投。強打の浦和学院を相手に7安打2失点とまとめ、エースの甲子園2試合連続の完投勝利を挙げた。堅実な守備で反撃の目を摘み取り、打っては10安打6得点。5回までで9安打6得点と前半で勝負を決め、選抜王者への対抗筆頭・浦和学院に快勝し見事下剋上。夏の甲子園8年ぶりのベスト8進出を決めた。
浦和学院(埼玉)
010 100 000-2
121 020 00X-6
天理(奈良)
(浦)山口、小島、佐藤-林崎
(天)中谷-舩曳
3.まとめ
スコア的には天理の快勝と見えるが、実力拮抗の中チャンスを確実にものにした天理とチャンスで最小失点に抑えられた浦和学院、この差が点差に現れた。
攻撃については、天理は6得点のうち2死からの得点が実に4得点。チャンスやここぞという場面で集中力を発揮し、2死からでもしぶとくチャンスをものにした。逆に浦和学院からすればダメージの大きい失点が多かったと言える。その意味でもターニングポイントは2回裏と5回裏の攻撃だろう。どちらのイニングも2死からのタイムリーヒットで点を重ね、試合の流れを大きく引き寄せた。
一方の守備面だが、まずなんと言っても中谷の好投が大きい。結局7安打を許すもスクイズとソロホームランによる2失点のみ。連打を許さず1イニング複数得点もなし、コントロールよく外角中心の投球で2試合連続2桁安打の浦和学院に自分たちの攻撃をさせなかった。守備に関してもチームの強みである堅守は健在で、特に好調の強打者5番笹川を打ち取った2つの併殺打は見事なプレーだった。どちらも繋がれていたら厳しい場面で中谷は冷静に打たせて取り、守備陣は球際強く守って凌いで常にピンチを最小失点で切り抜けた。相手に流れを掴ませず、自分たちが流れを掴んだら離さず、投打にかみ合い前評判を覆した会心の勝利だった。
浦和学院としたら6回から登板したエース佐藤の投球を見るとやや悔やまれた先発起用だったがこれは結果論。いずれにしても打線はこれまで甲子園で見せた繋がりを発揮することははできず。熱望していた大阪桐蔭との再戦は目前で果たすこと叶わず甲子園を去った。
4.所感・つぶやき
2012年・102代の天理といえば、冒頭でも触れた通り不祥事を乗り越えたチーム。チームワーク良く、難局でも絶やさない笑顔としぶとい戦いぶりがとても印象的でした。
前年部内の暴力事件が発生し夏の大会を辞退、当時の森川監督も引責辞任するという部の激動を経験した102代の選手たち。野球部監督には全国制覇2度を経験する橋本武徳監督が約20年ぶりに就任し、新チームは復活した名将とともに歩みを開始ました。心的動揺もあったであろう中チームは秋季大会奈良3位で近畿大会に出場。近畿大会では後に春夏連覇を飾る大阪桐蔭を破るなど快進撃を見せ準優勝、選抜出場を決め見事に甲子園に復活しました。
選抜では勝ち星こそ挙げられなかったもののその後もチームは力をつけ、夏の奈良大会を優勝し見事に春夏連続で甲子園出場。しかも夏の甲子園では3勝を挙げ8年ぶりにベスト8へ進出。好選手を揃え出場すれば優勝候補に挙げられた前年、前々年でも成せなかった甲子園での上位進出を果たしました。名将に率いられた102代は不祥事を乗り越え甲子園で躍動、文字通り天理野球”復活”を印象付けてくれました。
対する浦和学院は甲子園で勝てない時期が続いた中、この2012年は投打の柱佐藤を擁し春夏合計4勝、春はベスト8に進むなど、その殻を割った世代であったように思います。この敗戦を糧にしてか、翌2013年の選抜優勝は皆様ご存知の通り。
2012年は両校にとって一つターニングポイントになった世代であったように感じます。今年2022年の選抜出場が決まっている両校、世代も監督も変わっていますが甲子園の対戦をまた見てみたいカードです。
それではまた!
ガッツ天理🟣⚾️!!