過去の名勝負

紫の記憶〜2004年夏・天理−青森山田〜

生誕80周年の甲子園、その開幕戦は名門同士の激戦に!

今回は2004年夏、第86回選手権大会の開幕戦となったこの試合について書いていきます。

「天理高校ファンになった4つの理由・きっかけ」の回でも書きましたが、僕が高校野球に初めて出会ったのが他でもないこの試合で、僕にとっても高校野球ファンとしての”幕開け”。そんな思い出深い一試合です。

第86回選手権はこの大会が甲子園で開催されるようになってから80回目となる大会でした。東北・ダルビッシュ投手、横浜・涌井投手など現在もプロの世界で活躍される選手が登場し、甲子園優勝経験校が11校も出場するという名門校・注目選手目白押しの大会。その開幕試合は熱い熱い激戦でした。

※記事の読みやすさを考慮し、恐縮ながら選手名は敬称略とさせていただきます

 

第86回全国高校野球選手権大会・1回戦

大会1日目第1試合 天理−青森山田20048月7日)

1.両チームについて

2.試合について

3.まとめ

4.所感・つぶやき

 

1.両チームについて

天理

前年2003年に約5年のブランクを経て甲子園に復活した天理高校。その前年に引き続き2年連続の夏の甲子園出場となった。前年からレギュラーの主将岸田、2年生眞井を中心に、年の甲子園ベンチメンバー8人が残ったこの年のチーム。この夏の奈良大会はノーシードからの戦いとなったが6試合でチーム打率.370、総失点6と安定した勝ち上がりを見せた。攻撃面は6試合で68安打という打力もさることながら、犠打飛31が示すように塁に出たランナーをコツコツ着実に進め得点を重ねる。総得点50点で1試合平均8点以上と高い得点力を誇った。守備面は6試合で総失点6エラー4と堅実で、エース山下、柴田の両3年生右腕投手を中心に継投で勝ち上がった。投打にバランスの取れた高いチーム力を誇るも、当時の森川監督らしく、守備からリズムを作り攻撃では着実にランナーを進める手堅い野球をするチームだった。

青森山田

青森山田は青森県大会を圧倒的な戦いぶりで制した。6試合合計60得点、失点は準々決勝の光星学院戦で喫した1点のみ。その準々決勝以外の5試合を全て7点差以上、うち4試合で二桁得点を記録した。全試合でホームランを記録し、チーム打率は.374と打力は申し分ないが、県大会での失点1はこの年の全出場校の中で最も少なく、6試合でエラー4と守備面も堅実なものがあった。投手陣は2年生エース左腕柳田が中心的に投げてきたが、コントロールの良い菊池、1年生の野田らも控え層は暑い。スタメン9人中7人を2年生が占める下級生主体の構成が特徴的で、エースで4番の2年生柳田が投打の柱、3年生主将のショート佐藤が精神的支柱となるチームだ。

データ的には両チーム互角。ともにチーム力は高水準で拮抗しており、やや得点力に勝る青森山田と甲子園経験に勝る天理、好ゲームが期待される顔合わせとなった。

 

2.試合ついて

先攻青森山田、後攻天理。柳田、山下の両エース先発で幕を明けた。

先に守りについた天理。変化球中心に制球良く打たせて取るエースの山下と、長身188cmから球威あるストレートと落差あるフォークで三振の取れる柴田が控える中、山下を先発に持ってきた。しかし落ち着かない立ち上がり。試合は初回から動いた。

青森山田の先頭佐藤に強烈なサードゴロを打たれるが、サードのキャプテン岸田が前に弾きながらも落ち着いて処理し1死。しかしこの後2番白取のレフト戦へのふらふらっと上がった打球をレフト眞井がグラブに当てて落球、記録2塁打となり出塁。続く加守田に初球をレフト前に運ばれ1死1、3塁といきなりピンチを迎える。

青森山田はこのチャンスに迎えるは4番エース柳田。柳田は2球目を引っ張ってファーストゴロ、ファースト藤田は1塁ベースを踏みアウトとするがサードランナー白取がホームを狙う。これを仕留めんと藤田もホームへ送球。しかしボールを受けたキャッチャー西田の左足が本塁を塞ぎランナー白鳥はベースを踏むことができない。これを西田が本塁を塞いだと判定され走塁妨害となり3塁ランナーが生還し、先制点は青森山田に入った。天理は記録に残らないミスが続き先制を許す形となってしまった。尚も続く2死2塁で5番谷川がセンター前ヒット、2塁ランナーが還り2点目。初回いきなり青森山田に2点を許すスタートとなった。継投は想定していた天理森川監督だったが、初回から背番号10柴田をブルペンに送っていた。

開幕戦で最高の滑り出しとなった青森山田、次にスコアを動かしたのも青森山田の方だった。4回表、2点目のタイムリーを放った先頭の5番谷川が3塁線を破るツーベースヒットで出塁。1死後暴投でランナー3進し1死3塁。7番田守がスクイズできずのあと、きっちり一二塁間を抜きタイムリーヒット。青森山田が3点目をもぎ取った。打たせて取る投球が持ち味の天理山下だったが、不運なプレーに開幕戦やや浮き足だった守備の中で持ち味を発揮できずここで降板となった。山下の跡を引き継いだのは背番号10の柴田、奈良大会最も多いイニングを投げた天理の2枚看板の一角だ。長身から140km近いストレートを中心に、ヒット一本許すも後続を打ち取り続くピンチは抑えた。

天理はこの間ランナーを出すもののホームが遠い。3回は先頭7番坂根がヒットで出塁するも続く8番山下のバントが守備妨害を取られ進められず(打者走者山下がフェアゾーンを走ったことによる送球の妨害とのことだったが際どいプレー)後続凡退。4回は先頭の1番岸田がヒットで出塁、栗田がこの試合初めてのバントをようやく決め1死2塁。しかし3番眞井の大きなライトへの飛球は浜風に押し戻されライトフライ。風がなければスタンドインというような大きなあたりだった。やや不運な場面が続き得点までは至らなかった。

前半5回が終了し0−3青森山田3点リード。完全に青森山田のペースだった。天理打線は左腕柳田の重いストレートを中心とした投球の前に、捉えつつはあったが散発4安打で前半を終えた。この状況を打破するために何か一つ仕掛けたい。しかし試合は中盤に一つ動いた。

6回裏、先頭の9番浅田がしぶとく三遊間に叩きつけヒットで出塁、この試合4回目の無死かのランナーとなった。続くのは今日2安打の1番岸田、しかしバントの構えだった。手堅くバントで進塁させるのが天理の野球だが、試合展開そして6回という状況からバントでの打開はもうそろそろ厳しいかと思われた。そんな矢先、2球見て1−1のカウントからヒットエンドラン、岸田の打球はレフト前に弾み無死1、2とチャンスを拡大した。この試合初めての連打、しかも送らず打って繋いだ。2番栗田はバスターやや中途半端な打球となり3塁封殺となり1死1、2塁。ここで3番眞井を迎えた。真夏の炎天下、伝統の応援「ワッショイ」が鳴り響く中、1−1から外角直球を振り抜いた。一閃!

眞井の打球は左中間深々と飛び、甲子園の左中間フェンス上部に直撃した。またもやあわやホームランの打球。弾んだ打球をセンターもうまく処理できない。2塁ランナーそして1塁ランナーまでもが返り、一気に2点を返し1点差まで詰め寄った。大きな大きな一打、相手ペースの試合をまさしく打開した。直球をあそこまで弾き返された青森山田バッテリーへの衝撃は大きかったか。変化球の割合を多めの配球に切り替えつつあったが、続く4番藤田も決め球の直球を打ち返しレフト前ヒットで続く。流れが明らかに天理になっていった。1死1、3塁となって青森山田やたまらず守りのタイムをとるが、続く5番田中への2球目をキャッチャー加守田が後逸し(記録は暴投)3塁ランナー眞井が生還。ついに天理が3−3同点に追いついた。

この6回の同点劇で、スコア通り試合の流れはゼロに戻った。6回以降は天理柴田、青森山田柳田の素晴らしい投げ合いが続いた。柴田は4回途中からのロングリリーフとなったが、強打の青森山田打線を見事に抑え込んだ。7回に2番白取にツーベース、8回に4番柳田に内野安打を打たれたのみで連打を許さず。直球には球威があり高めでもフライを打ち上げる、長身から投げ下ろすフォークも冴え三振も数多く奪った。その表情、風貌はかつての優勝投手南投手を彷彿とすらさせる。持ち味を発揮した見事な投球を展開した。

青森山田の柳田は6回こそ打ち込まれたもののその後も球威は衰えず、配球も変化球主体に変えながら巧みに天理打線を打ち取り抑え込んだ。2年生ながら堂々と天理打線に投げ込む姿には怪物感が漂う、貫禄の投球を繰り広げた。

次のターニングポイントは9回裏にあった。9回裏天理の攻撃、先頭の5番田中が左中間に大きなあたりを放つ。フェンス上部に当たるツーベースヒット。あと少しでホームランかという打球、こちらも2年生の5番の豪快なバッティングで天理がいきなりサヨナラのチャンスを作り出す。青森山田バッテリーはここで6番西田翔を敬遠、塁を埋める作戦に。無死1、2となり7番坂根は前進の1塁を避け3塁側にバント、これが内野安打となり無死満塁とチャンスを広げる。天理に絶好のサヨナラのチャンスが訪れた。この場面で迎えるのはここまで好投を続けてきたピッチャー柴田、リーチ長く前の打席のショートゴロも良いあたりだった。その2球目、またも捉えた打球がサードへ飛んだ。打った瞬間サヨナラかという打球だったが。。。

打球はサード鴨田の守備範囲、そして手を伸ばして打球を取ったあとサードベースも踏みダブルプレー。2塁ランナーはなんとか戻ったが、絶好のチャンスでサードライナーゲッツーとなり2死1、2塁となった。天理としたらアンラッキー、青森山田にすればややラッキーだったが理想的な形で2死を取ることとなった。球場は大いにざわめいた。9番浅田のところで青森山田のレフトは金子から久高に交代。天理としたらまだチャンスは続くものの、浅田は初球を打ってセカンドゴロ。無死満塁の絶好期を逸した。この9回裏は先頭田中のあわやホームランの打球、無死満塁での柴田のサードライナーと、あと少しでサヨナラというようなシーンが2度ありながらこの回で勝負を決めることはできず、試合は開幕戦としては6年ぶりとなる延長戦に突入した。

延長10回表裏は両チーム三者凡退、11回表裏はそれぞれランナー1人を出すも無得点。どちらに次の1点が入るの全くかわからない、手に汗握る展開が続いた。

12回表の青森山田は無得点、12回裏天理の攻撃を迎えた。先頭8番柴田三振、9番浅田がショートのファインプレーもありショートゴロ。2死となってから迎えた1番岸田が左中間を破るツーベースヒットで出塁した。1番の主将はなんとこれで今日4安打。あっさり2死となった後にヒット一本で迎えたチャンス、まだなんのことはない場面と思われたその時だった。

続く2番栗田のところ、外野は全員かなり浅く守っていた。0−1からの2球目、直球を打った打球はやや詰まってレフトの前へ飛んだ。9回から途中出場のレフト久高が懸命に突っ込む。クラブを差し出し追いついたかに見えたが打球はグラブの僅か先に落ちていた。芝の上に止まったボールを久高は戻って取る。この間に2塁ランナー岸田はホームを目掛けて駆ける。久高が返球したボール、もう間に合うはずがなかった。岸田がホームを駆け抜けサヨナラ。最後は天理が二死から7球で決めた。あっけなくすら見えたが、鮮やかな、しかし一瞬のチャンスをものにせんと言うしぶとい攻めだった。

4x−3、いつ終わるのか分からないほど緊迫し、拮抗したこの夏の開幕戦は天理の劇的なサヨナラで終戦。これだけの厳しい試合の中両チーム無失策。延長12回にも関わらずテンポ良く、名門同士の引き締まった好ゲーム、熱戦だった。

青森山田(青森)
200 100 000 000-3
000 003 000 001x-4
天理(奈良)
(青)柳田-加守田
(天)山下、柴田-西田翔

 

3.まとめ

延長に及んだ熱闘も、勝負が決まったのは一瞬だった。6回そして12回、限られたわずかなチャンスを自分たちの攻撃でしぶとくものにした天理が勝利を掴んだ。

前半5回までは完全に青森山田ペース。しかし天理が6回一気に追いついてから試合は膠着。青森山田柳田、天理柴田の素晴らしい投げ合いで同点以降は互角の試合展開に。どちらが得点してもおかしくない展開の中、最後は天理が2死からツーベースヒットで一気にチャンスを作り、2番栗田がしぶとくレフト前に運ぶヒットで劇的サヨナラ勝ち。もはや先攻後攻の違いが勝敗を分けたと言って良いくらい、拮抗した緊張感ある試合だった。

天理は前半は記録に残らないミスや不運な場面が見られなかなか攻守にリズムに乗れなかったが、6回の攻撃でその流れも一変、眞井のタイムリー等で試合の流れを一気に引き戻した。9回裏も完全に捉えた打球が正面を突き併殺となるこれまた不運なシーンもあったが、序盤から流れを悪くしておかしくないようなプレー・状況を幾度も耐え凌ぎ、最後12回裏は2死からツーベースヒット、タイムリーヒットの一気の連打で勝負を決めたその執念、粘り強さには伝統校の力を感じた。

天理のこの試合のキーマンは2年生の3番眞井、そしてロングリリーフとなった2番手投手柴田だろう。眞井の左中間2点タイムリーツーベースは試合の流れとしても青森山田バッテリーに与えた影響としても大きかった。直後の4番藤田の打席から変化球でカウントを取る配球に切り替えた点にそれが窺える。4回途中から登板した柴田は、序盤完全に流れを掴まれていた青森山田の打線を文字通りシャットアウトした。柴田に変わってから許したヒットは4本、6回以降に至っては2本しか許さなかった。8回2/3を投げて8奪三振と持ち味を見事に発揮、試合の流れを天理に引き戻した立役者と言って良い見事なリリーフだった。

青森山田は緊張感漂う開幕戦で初回に先制、4回に中押しと中盤までは完璧な試合運びだった。エース柳田も気迫の投球で天理打線に立ち向かうが、6回裏そして12回裏とワンチャンスで天理打線に攻め込まれ得点を許した。しかし延長12回に及ぶ戦いの中で、柳田が迎えたピンチらしいピンチはこの2イニングと9回裏の計3度だけ。柳田が天理打線を押さえる場面の方が多く、繰り広げた169球の熱投は見事だった。唯一眞井に打たれた後配球がやや中途半端なうちに同点まで許してしまった一瞬の動揺が悔やまれたが、この試合の悔しさはこの2年生バッテリーが翌年も春夏と甲子園に戻り快進撃を見せる、その大きな礎となったに違いない。勝利に程近い敗戦だった。

 

4.所感・つぶやき

僕はこの試合で心を掴まれ天理高校のファンになりました。今こうして振り返ってもそれくらいインパクトある劇的な試合だったように思います。特に当時中学二年生で野球をやっていた立場から見た高校野球、甲子園大会の壮大さ。そして全国に名だたる名門・強豪校同士のぶつかり合い。特に今思えば貴重な「自分より年上の世代の甲子園」であっただけに、ワンプレーや一選手に対して感じる凄さは独特のものがありました。

まずこの試合で衝撃的だったのが、青森山田の柳田投手です。2年生でエースで4番、当時の僕にはもう規格外すぎて意味がわかりませんでした(笑)しかも第一打席できっちり打点を残し投げては天理打線を力で抑え込む。のちにプロ野球・ロッテに入団するわけですが、こういう規格外な選手がプロに行くんだなと、しみじみその凄さを感じた選手でもありました。(とある方のYouTubeでもお話しされてましたが、大阪出身であのダルビッシュ投手と同じボーイズチームで、ご本人は途中までPL学園を志望していたというエピソードもありますね)

またこの試合で最も印象的だったのが天理の鮮やかなバイオレットのユニフォームです。そのかっこよさに目を引かれ、この試合以降気づけばもう天理を応援していました。結局この夏天理はベスト8に進出するわけですが、計4試合を戦ったバイオレット軍団の記憶はめざましく、当時自分と同じ野球部の仲間も何人かはこの夏で天理のファンになっていました。

そして眞井選手です。(こんなこと言うの恐縮ですが)当時の僕も背番号7で左打者だったので出場選手の中でも特にこの眞井選手には注目しました。下級生ながら名門天理の3番に座り柳田投手から素晴らしい打球をかっ飛ばす姿は印象的と言う言葉では余りあるくらい素晴らしかった。特に6回の左中間フェン直タイムリーツーベースは、そのスイング、フォーム、打球、打球音、球場の歓声全てが鮮明に記憶に刻まれています。あの一打あの瞬間で、僕の心は天理野球に完全に掴まれました。

青森山田は最後の甲子園出場が2017年夏。天理も選抜はここ数年出ていますが夏は同じく2017年以来空いています。この両校の名前を聞くとこの試合を思い出さずにはいられません。また甲子園でこの両チームが戦う姿を見てみたいです。

 

今回も最後までご覧いただきありがとうございました!

それではまた!

ガッツ天理🟣⚾️!!

ABOUT ME
kosuke@天理野球部応援
新潟出身東京在住。2004年〜天理高校ファン。高校野球は地元新潟県勢と天理高校を応援してます。生きてるうちに天理高校と新潟県勢の全国制覇が見たい!