過去の名勝負

紫の記憶〜2010年夏・天理–履正社〜

初戦屈指の好カードの命運分けた”剛と柔”、そして現プロ野球選手同士の宿命の対戦!

記事の読みやすさを考慮し、恐縮ながら選手名は敬称略とさせていただきます

 

第92回全国高校野球選手権大会・2回戦

大会6日目第3試合 天理−履正社2010812日)

1.両チームについて

2.試合について

3.まとめ

1.両チームについて

天理

春夏連続甲子園出場を果たした前年2009年から試合経験のある中村奨吾(現千葉ロッテ)、安田紘規、内野聡、沼田優雅(現NTT東日本)らが残った大型チーム。投打に中心選手が残ったこの2010年世代は強力打線を擁し、秋季大会4割近いチーム打率を記録して選抜出場。開幕戦となった初戦で敦賀気比に逆転負けし投・守に課題を残したが、奈良県内での実力は抜きん出ていた。
選抜後の春季奈良大会を優勝、春季近畿大会は初戦で北大津に敗退。しかしこの春の戦いの中でエース左腕沼田は直球の力が増し、チェンジアップを始めとした変化球にもキレが出て三振も取れるように。強打者が揃う野手陣は選抜以降内外野の守備位置をコンバートしながらも変わらぬ強打を誇った。
迎えた夏の奈良大会、強力打線にエース沼田の安定した投球で投打に噛み合い順当に奈良大会を勝ち進む。迎えた決勝戦の相手は智弁学園。名門対決となったこの一戦でも猛打爆発。序盤から打って繋ぐ積極的な攻撃とフルスイングで得点を重ね、中盤には5番内野の場外ホームランも飛び出し、終わってみれば14得点。エース沼田は智弁学園相手でも付け入る隙を与えず1失点完投。14−1と大差をつけ春夏連続の甲子園出場を決めた。
この夏の奈良大会のチーム打率は.404。クリーンナップの中村・安田・内野を中心に強打者を揃え、どこからでも得点できる攻撃力。前年秋季大会ではチーム防御率4点代だった投手陣もエース沼田を中心に西浦健太、2年生西口の右腕投手の好投で安定感を増した。昨年の経験者に加え中学時代の実績豊富な2年生の好選手達も名を連ね、森川監督をして”今年は打のチーム”と言わしめたこの世代。投打に充実の戦力で最後の夏の甲子園を迎えることとなった。

履正社

当時の大阪は現在ほど大阪桐蔭、履正社の実力が抜けておらず、PL学園も健在でまさに群雄割拠。この年は同年選抜出場の大阪桐蔭、前年選抜に出場し勧野、吉川ら強打者と好投手多司を擁するPL学園、同じく前年選抜に出場し春季大阪大会準優勝の金光大阪、そして春季大阪大会優勝・春季近畿大会準優勝の履正社の前評判が高かった。
この世代は1年生から公式戦を経験する山田哲人(現東京ヤクルト)を擁するも前年夏大阪大会ベスト4のレギュラー陣が抜けガラリとメンバーが変わった。秋は準々決勝でPL学園に敗れ選抜出場ならず。PL学園の注目度が高く、大阪桐蔭が選抜大会で躍動するという中、迎えた春の大会でこの世代の思いと実力が花開く。初戦から投打に噛み合った戦いぶりで勝ち進むと、準々決勝では選抜出場の大阪桐蔭を3−0の完封で下し勝利。準決勝・決勝も勝利し混戦の大阪を制した。近畿大会では先述の通り準優勝。後に夏の甲子園でベスト4まで勝ち進む報徳学園に敗れたものの大阪そして近畿で存在感を発揮した。
夏の大阪大会も順当に勝ち進んだがターニングポイントは4回戦。優勝候補筆頭とされていたPL学園と早くも対戦することとなったのだ。序盤PL学園のリードで進むも食らいつき、追い付いては追い越されるシーソーゲーム。延長10回に渡ったこの激しい接戦を見事に制し、前年夏・秋と2度も続けて苦杯を舐めさせられたPL学園に対し最後の夏に勝利を収めた。この勝利で完全に勢いに乗ったチームはその後も勝ち進み、古豪・大体大浪商との決勝も投手を中心とした守りで完封勝利。夏は実に1997年以来13年ぶりとなる甲子園出場を果たした。.387のチーム打率に飯塚・平良の両サイド右腕の安定感が武器。先発飯塚・リリーフ平良の継投が必勝パターンだ。

投打に充実で共に今大会の優勝候補だった両チームの対戦は、実力拮抗のハイレベルな試合となった。

2.試合ついて

近畿勢しかも強豪校同士の対戦とあり、甲子園球場は第3試合にもかかわらず47,000人の観衆で埋め尽くされた。先攻天理、後攻履正社。履正社は2年生飯塚、天理はエース沼田の先発で試合が始まった。

試合は初回から動いた。履正社は1回裏先頭海部が強烈なピッチャー強襲安打で出塁。これでやや調子を乱した天理沼田から四死球を奪い一死満塁とチャンスを広げると、5番大西が鮮やかにレフト前に弾き返し1点先制。続く2回裏も8番坂本(現阪神)のレフトフェンス直撃ツーベースからチャンスを作り、1番海部の犠牲フライで1点。0−2、初回からソツのない攻撃で履正社が主導権を握った。

しかし天理も反撃する。3回表、1番岩崎がチーム初ヒットで出塁。バントで送って一死2塁とした後3番中村がライト線へ痛烈に撃ち返すタイムリーで1点返し1−2。尚もチャンス続くかと思われたところ、2塁ベースを蹴って3塁を狙った中村を、履正社守備陣が見事な中継で阻止しタッチアウト(記録は2塁打)。間一発のプレーだったが天理は惜しくも同点のランナーを残せず反撃の流れは断ち切れる形となってしまった。

この天理の得点で試合の流れは分からなくなったが、次の得点は履正社だった。5回裏、2番江原のツーベース、3番山田のサード強襲ツーベースで無死2.3塁から4番石井がインコース直球を力でセンターへ運び犠牲フライで3点。そしてこの後だった。二死となった後6番出口が四球で出塁し1.3塁。ここでファーストランナー出口がスタートを切ったかに見せて転倒。天理は出口を一二塁間で挟むがこの間に3塁ランナーが生還し4点目。出口がアウトになる前にホームインしたため得点は認められ、ここにきて意表を突いた足技・トリックプレーで追加点。かなり嫌な、重い1点に見えた。

前半5回終了して1−4と履正社リードだったが、これ以降は両チームとも点が奪えず。天理は6回裏、一死1塁から4番安田にようやく出た左中間へのツーベースで一死2.3塁と絶好のチャンスを作るも5番内野が全くタイミング合わず三振、6番長谷川も合わせただけのような打球でピッチャーゴロ。飯塚を依然として捉えることができず、その丁寧な投球の前に持ち前の強打、フルスイングを発揮させてもらえない。

履正社も6回以降は沼田から点を奪えないが、ここまでの飯塚の投球と、その後に控える平良の存在を考慮すれば3点は十分なリードだった。7回も先頭亀沢にツーベースを許すも後続を打ち取り無得点。8回には先頭に四球を出したところでリリーフ平良にスイッチ。いつもの勝ちパターンだ。
ただでさえ攻略できなかった飯塚の後、この終盤8回で平良に繋がれた天理打線にはもうなすすべがないようにすら見えた。このランナーを置くも4番安田がショートゴロダブルプレーに、9回もヒットのランナーを置くも6番亀澤がダブルプレーに打ち取られ試合終了。

1−4、点の取り合いの序盤に多彩な得点パターンで点を重ね流れを渡さず、終盤は継投で逃げ切り。履正社が強打の天理を下し見事夏の甲子園初勝利を収めた。

天理(奈良)
001 000 000-1
110 020 00X-4
履正社(大阪)
(天)沼田、西口-亀沢
(履)飯塚、平良-坂本

3.まとめ

実力拮抗の試合、しかし甲子園経験者が多数いる天理が勝る前評判だったが、結果は甲子園経験者のいない履正社の方が試合巧者ぶりを発揮した。攻撃面はタイムリーあり犠打あり足でもぎ取った得点ありと、硬軟織り交ぜた多彩な攻めで試合を支配した。だがこの試合特に大きかったのは2年生の先発飯塚の投球。初めての甲子園のマウンドに戸惑うことなくコースを丁寧に突く投球で天理打線に的を絞らせず、打撃に自信を持ちフルスイングしてくる天理の打者を手球に取るような投球で抑え込み、まさに”柔よく剛を制す”といった勝ち方。じわりじわりと広がった点差、結果3点だったがそれ以上に重く大きく感じさせたのはこの飯塚の投球。強打天理を制した見事な勝利だった。

天理打線は終始的を絞ることができなかった。飯塚投手の丁寧な投球の前に反撃の糸口を掴めず、リリーフ平良投手に繋がれ万事休す。奈良大会で猛威を振るった強力打線もその力を発揮させてもらえず、特に打線の大半を占めた左バッターが全くと言って良いほどタイミングが合わず抑えられ、ヒットは結局散発の6本。自慢の打線は鳴りを潜めた。
一方でやや不運な場面が続いたところもあった。エース沼田が初回いきなり先頭の海部から強烈な打球をグラブの右手に受け、3回にはまたも3番山田の強烈な打球が喉元を襲い強襲ヒットに。結局負傷交代するようなことはなかったが初回からどこかリズムに乗れない投球が続いた。また攻撃の方でも3番中村がタイムリーで3塁に滑り込んだ際に右手指を負傷し、以降は自分のスイングができず。追いかける展開の中なかなか自分達の流れに乗れない時間が続いた。
普段はバントを駆使し手堅く攻める野球の森川監督が珍しく打撃に全振りしたチームだったが、最後は看板の強力打線が抑え込まれる形となり、試合後のコメントでは「もうこういうチーム作りはしません」。選手の力の高さは確かだったがそれを甲子園で発揮しきれなかった点は悔やまれた。

 

この試合は天理、履正社共に中学時代からの実力者が揃い、名選手が多数出場した試合でした。代表格は共に現在プロで活躍する天理中村選手と履正社山田選手。その他にも3年生では天理に沼田、安田、内野、選抜で150kmを計測した西浦健太。2年生はオール枚方全国優勝メンバーの天理伊達・柳本・長谷川、履正社海部。そして現在阪神で活躍する履正社坂本捕手。ざっと上げるだけでもこれだけ。この両チームは同年の秋季近畿大会の決勝でも対戦しますし、履正社は翌年選抜ベスト4。その高い実力は近畿を牽引、有力選手や力自慢の強打者・大砲が揃いロマンある世代でした。
特に中村選手と山田選手が小中と同じリーグに所属し、互いを認め常に意識して高め合ってきたと言ったエピソードは有名。この試合で両者が相対したことはただの偶然ではない気がしてなりません。今後の両校、両選手の活躍も楽しみです。

 

今回も最後までご覧いただきありがとうございました!

それではまた!

ガッツ天理🟣⚾️!!

ABOUT ME
kosuke@天理野球部応援
新潟出身東京在住。2004年〜天理高校ファン。高校野球は地元新潟県勢と天理高校を応援してます。生きてるうちに天理高校と新潟県勢の全国制覇が見たい!